補体は、生体防御において、大きな役割を果たしていますが、重症筋無力症の体内では、どのように関わっているのでしょうか。
今回は、抗アセチルコリン受容体抗体陽性重症筋無力症の発症機序、抗アセチルコリン受容体抗体陽性重症筋無力症における神経筋伝達障害の機序と補体の関与、重症筋無力症患者の筋組織中における補体の検出、重症筋無力症患者の血中補体濃度と重症度との関連などについて、解説します。
重症筋無力症は、抗アセチルコリン受容体抗体などの自己抗体により、神経筋接合部における神経筋伝達が障害される自己免疫疾患です。
抗アセチルコリン受容体抗体陽性重症筋無力症の患者さんでは、まず胸腺における自己反応性T細胞の活性化によってB細胞や形質細胞が活性化され、抗アセチルコリン受容体抗体などの自己抗体が産生されます。その結果、神経筋接合部における伝達障害が生じることにより、筋力の低下が引き起こされます。
それでは、抗アセチルコリン受容体抗体陽性重症筋無力症における神経筋接合部での伝達障害は、どのような機序で起こるのでしょうか。1つ目の機序として、自己抗体が神経筋接合部のアセチルコリン受容体に結合することにより、アセチルコリンのアセチルコリン受容体への結合が阻害されることが考えられています。
2つ目の機序としては、自己抗体がアセチルコリン受容体と架橋を形成し、アセチルコリン受容体の内在化と崩壊を促進することが考えられています。
そして、最も重要な3つ目の機序として、自己抗体がアセチルコリン受容体に結合することにより、補体が活性化し、シナプス後膜に膜侵襲複合体、MACが形成され、運動終板が破壊されることが考えられています。
実際に、重症筋無力症患者の筋組織を観察してみると、運動終板においてC9の沈着や免疫グロブリンGおよびC3の沈着が認められることが示されています。
また、重症筋無力症患者および健常コントロール群を対象に、C5b-9の血中濃度を比較した試験では、重症筋無力症患者の58%でC5b-9濃度の上昇が認められたことが報告されています。
ただし、こうしたC5b-9濃度の上昇と疾患の重症度との間に関連は認められませんでした。
一方、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の重症筋無力症患者では、補体の活性化に伴い、C3の消費が促進されると考えられ、血中C3濃度が低値を示しますが、
ステロイド※や免疫グロブリン※による治療を行うと、C3濃度が上昇することが報告されています。 ※本邦では一部のステロイドおよび免疫グロブリン製剤にはMGの適応はありません。
また、個々の患者ではC3濃度の上昇に伴い、重症度スコアが改善する可能性も示唆されています。
しかし、患者全体でみると、 C3濃度と重症度スコア、もしくはアセチルコリン受容体抗体価との間に関連は認められませんでした。
このように血中の補体濃度と疾患の重症度との間に関連が認められない要因の1つとして、補体消費の場が神経筋接合部に限定されていることが考えられています。神経筋接合部の面積は、すべてあわせても数平方ミクロンときわめて小さく、疾患の重症度や病勢を反映しにくい可能性があります。
今回は、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の重症筋無力症において、補体が活性化することにより運動終板が破壊され、神経筋伝達が障害される機序についてご紹介しました。実際に、重症筋無力症患者の筋組織中では補体が沈着しており、また、血中の各補体濃度の変化などから、補体が重症筋無力症の病態と深くかかわっていることが示唆されます。
次回は、こうした重症筋無力症における補体の作用を抑制する抗補体薬についてご紹介します。